労働審判の流れと、企業の対応策は?

労働審判の流れ

紛争の発生

従業員と使用者との間で、個別の労働関係紛争が発生します。

この時点で、使用者は、

①労働審判を申し立てられるリスク
②労働訴訟を提起されるリスク
③労働組合から団体交渉を申し入れられるリスク
④労基署に駆け込まれるリスク

などを考えながら、解決を目指します。

労働審判の申立と使用者の対応

使用者が、(元)従業員との間で、話し合いによる解決ができない場合、従業員が、労働審判を申し立てることがあります。

この場合、使用者は、裁判所から、労働審判申立書や書証などの書類を受け取ることになります。

使用者としては、①弁護士の選任、②答弁書の準備、などを開始します。

申立書の内容

申立書には、次のような内容が記載されています。

①申立の趣旨および理由
②予想される争点および当該争点に関連する重要な事実
③予想される争点ごとの証拠
④当事者間においてされた交渉その他の申立に至る経緯の概要

等。

弁護士の選任

弁護士を選任するのが一般的です

一般的には、労働審判対応のため、弁護士を選任します。
使用者の人事担当者だけで、労働審判対応を行った場合、使用者に不利な内容の「労働審判が下される」可能性が高いです。

弁護士をネットなどで探します。

労働審判対応は、弁護士業界の中でも、特殊な分野です。
したがって、労働法に強い弁護士をインターネットや紹介などで、探します。
その上で、直接会い、申立書などを開示し、事件の見通しなどの意見を聞きます。

弁護士の意見に納得できたら、その弁護士に見積もりを出してもらい、弁護士費用に合意した段階で、成約となります。

第1回期日の指定

労働審判の第1回期日は、申立がされた日から40日以内に指定されます。

♯通常の労働訴訟の場合、提訴から30日以内の期日指定です。

労働審判の方が労働訴訟よりも長いのは、相手方(使用者側)の準備の負担が重いため、それに配慮しているからです。

答弁書の準備

打合(ヒアリング)をします

申立書には、ざっくりとした表現で言うと、

①事実面に、客観的事実と違う主張が記載されていたり、
②法律面に、判例や法令と異なる主張が行われていたり、

します。上記の①事実面では、「使用者に有利な事情」が欠落していたりします。

そこで、使用者と弁護士が打ち合わせをし、

①事実面のヒアリング

を行います。ここで、「この申立書の箇所は、事実と違う」とか、「使用者に有利な事情を裁判官に知ってもらいたい」といった情報を弁護士に提供します。

弁護士が答弁書(草案)を作成し、使用者が内容確認します

上記のヒアリングの後、弁護士が、答弁書(草案)を作成します。

これを、使用者が確認し、内容にコメントを加えていきます。

それを踏まえ、弁護士が、答弁書(草案)を修正します。

このような修正作業を何度か繰り返し、答弁書(完成版)を作成します。

【留意すべき点】
答弁書に記載した内容は、「有利に」なることもあれば、「不利に」なることもあります。提出した後になって、「こんなはずではなかったのに・・・・・」とならないよう、経験豊富な労働法弁護士のチェックを経た上で、答弁書を完成させます。

答弁書の内容

答弁書には、

①申立の趣旨に対する答弁
②申立書に記載された事実に対する認否
③答弁を理由づける具体的な事実
④予想される争点および当該争点に関連する重要な事実
⑤予想される争点ごとの証拠
⑥当事者間においてされた交渉その他の申立に至る経緯の概要

等を記載します(労働審判法規則16条)。ただ、それぞれの内容について、何をどの程度書くべきか、はメリット・デメリットと今後の展開予測などを意識すべきです。

答弁書の提出期限

実務的には、第1回期日の1週間前から10日前くらいに、答弁書の提出期限が定められることが多いです。

証拠の準備

申立書には、申立人に有利な証拠しか、添付されていません。

そこで、使用者としては、使用者に有利な証拠を準備し、提出する必要があります。一般的には、次のような証拠があります。

・就業規則
・雇用契約書
・履歴書
・求人広告
・改善指導書
・タイムカード
・始末書
・被害写真
・陳述書
等々

【注意すべき点】
証拠は、提出者に「有利に」なることもあれば、「不利に」なることもあります。提出した後になって、「こんなはずじゃなかったのに・・・・・」とならないよう、労働審判に慣れた弁護士のチェックを経た上で、提出しましょう。

補充書面に対する反論

答弁書等提出後~第1回期日までの間に、申立人から補充書面が提出されることがあります。

これに対し、相手方(使用者)としては、

①反論の補充書面の提出
②第1回期日で口頭での反論

のいずれか、を行うべきです。

期日への準備と対応

出頭義務

相手方(使用者)には、出頭義務が課せられ、これに違反した場合には、

5万円以下の過料

の制裁が課せられることになっています。

但し、呼び出しの方法が特別到達によらない場合には、過料の制裁を課すことはできないとされています。

第1回労働審判期日

最初は、労働審判委員会が自己紹介をします。次に、申立人側と相手方側の出席者を確認します。

出席者確認が終わると、労働審判委員会から、申立人や相手方に対し、質問が行われます。

これらの質問に対し、申立人側出席者や、相手方側出席者が回答していきます。それぞれの代理人弁護士は、適宜発言します。

このような手続の後、申立人側と相手方側が退席をし、労働審判委員会が内部打合せをします。

その後は、申立人側だけが労働審判委員会に呼ばれたり、相手方側だけが労働審判委員会に呼ばれます。
そこで、労働審判委員会との間で、協議・打合・説得などを行います。

以上が終わると、労働審判委員会として、おおよその心証をとります。すなわち、申立人が勝ちか、それとも、相手方が勝ちか、の心証をとります。一方が勝ちだとしても、どの程度の勝ちか(具体的な金額として、いくらくらいの勝ちか)、というレヴェルまで、心証をとることもあります。

この心証をどのような形で、開示するか、については、ケースによって異なります。

【注意点】
以上は、一般的な流れです。個々の裁判所によっても異なりますし、事案によっても違います。したがって、使用者としては、「臨機応変に」対応することが重要です。具体的にどのような対応をすればよいのか、については、経験豊富な労働法弁護士が「いくつかのパターン」を予想してくれますので、それに従って、対応することになります。

第2回労働審判期日

ほとんどの場合、心証形成が終了しています。

労働審判委員会の心証形成をベースとしながら、和解に向けた交渉が行われます。

第2回期日で、調停案が出されることがあります。

これを持ち帰って検討する場合もあれば、この調停案で和解を成立させる場合もあります。

第3回労働審判期日

引き続き、和解に向けた交渉が行われます。

交渉が決裂した場合、労働審判が下される可能性が高いです。

異議の申立

労働審判の内容に納得できない場合、異議を申し立てることになります。

異議を申し立てることによるメリットとデメリットを勘案しながら、判断します。

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